たび猫の島根・鳥取旅行記

旅行2日目

松江水燈路

 食後、だるさが少し引いたこともあり、姉たちの強い誘いもありまた夜の町へ出かけることになった。というのも、この時期松江城の辺りでは、“松江水燈路”というイベントをやっていたからだ。

 この松江水燈路というのは、松江城のお堀で遊覧船に乗り、ライトアップされた松江城や灯籠でほんのりと明るく照らされた城下町を船上から眺めるというものだ。

 このお堀の遊覧船は、昼間でももちろん乗れるのだが、私たちは昼間乗っていないし、夜の遊覧船なんてなかなか珍しいので、体調はまだ悪かったけど頑張って行ってみることにした。

 この時実は、私だけでなく姉の家の次女も風邪を引いていて、かなり具合が悪そうだった。そんな次女を夜連れて出るのはかわいそうだと母に反対され、次女と私の母は旅館に残ることになった(というか、それでも行く姉の家族って・・・)。姉、姉の夫、姉の長女、私、私の夫、息子の6人で夜の松江の町へと出かけた。

 昼間も来たお城の入り口のところの駐車場に車を停め、すぐ近くにある船乗り場へ行く。船乗り場のところには、ラーメンとかいくつかの屋台が出ていた。旅館の夕食を食べたばかりでお腹いっぱいだったので、食べたいような気がしたが素通り。

 お客さんはそれほどいなかったので、私たちはすぐに船に乗れた。船は船頭さんがいる、風流な感じの船だ。私たち6人の他に、横浜から来たというご夫婦と一緒に同じ船に乗った。船代は一人片道500円である。降りたら夜の城下道を歩いて帰ってくればいいので、片道でOKである。

 船は木でできており、船頭さんが操ってくれる。私たちの船の船頭さんはとてもよくしゃべる、面白い年配のおじさんだった。船に乗っている10分くらいの間、このおじさんはおやじギャグをまじえながらずっとしゃべり続けていた。

 ちなみにおじさんは石見人ということで、たしかに昼間のお城のガイドさんとは方言がぜんぜん違うように聞こえた。「~じゃきー」とか「~のう」とか言っていたので、どちらかというと広島弁に近い言葉だったように思う。関東では聞きなれない石見弁を聞きながら、風流な船に乗ってお堀を周っていると、旅行気分を十分満喫できた。

 それにしても夜のお堀は、昼間とはやっぱり雰囲気が違う。ところどころお堀の内側の木々をライトアップしている船が出ていて、明るすぎない程度に照明を当てている。船頭さんによると、引退された先輩船頭さんがたが来てライトアップしているのだという

 そしてお堀に沿った城下町の道には、お堀に沿って行灯が並べられている。それがまたぼやっとしたやわらかい光で、城下町を照らしている。きらきらとした現代的なライトアップとは違うやわらかく明るすぎない光で、それがまた城下町を美しく夜に浮かび上がらせていた。昼間も思ったけど、松江の人たちは松江の町の良さをよくわかっていて、すごくうまくアピールしているなーって思った。

 船はこうしてのんびりと10分くらい水の上を走り、城下町のどこかの船着場に着いた。ここからまたお金を払って乗って帰ってもいいのだが、お堀沿いの城下町の道を歩いて駐車場に戻ってもたいした距離ではないし、夜の城下町もぜひ見たかったので、そのまま歩いて帰ることにした。そして実際歩いてみて、本当に良かったと思う。船の上からとはまた違った良さをじっくり味わうことができたからだ。

 とにかくとてもうまく灯りを使って、松江の城下町の良さを演出していたように思う。お堀に沿って並んでいる行灯の明かりも、蝋燭の自然の光なので、趣を壊していない。それに昼間歩いて素晴らしいと思った、小泉八雲記念館などがある古い町並みを残した塩見縄手の通りも、明るすぎない街灯で照らされていて本当に素晴らしかった。まるで小泉八雲の時代に来てしまったのではないかと思うような雰囲気だった。

 日本では今、どの町に行ってもだいたい煌々と明るい街灯が夜道を照らしているので、この光景はけっこう感動的でもあった。日本のあちこちで、こういうふうに古い町並みをうまく保存し、盛り上げていったら、それぞれ個性のある町があちこちにできて、すごく面白いだろうと思った。

 途中地ビール工場みたいなところもあり、そこもちょっとのぞいてみた。お土産もたくさん売っていたし、地ビールを飲めるコーナーもあった。夫と姉の夫はさっそく1杯飲んでいた。一口もらったらとてもフルーティな味わいでおいしかった。

 2階はレストランになっていて、牛肉食べ放題の焼肉のお店だった。そういえば旅館の夕食で島根牛が出されたが、やわらかくてとてもおいしかった。おいしい島根牛が食べられるお店があれば、ぜひとも行って味わってみたいものだ。

 ところで、町の雰囲気も良かったが、それと並んで面白かったのは、お堀に沿って並んでいる行灯である。どの行灯にも手書きの絵や詩(?)みたいなものが書かれていて、それを読みながら歩くのがとても楽しかったのだ。

 それにしてもこれらの行灯は、いったい誰が書いているのだろう?子どもが書いたと思われるものから、年配の人が書いたと思われるような達筆な字や美しい絵が描かれたものもあった。

 行灯に書いている内容は、それぞれだ。交通標語みたいなものや小泉八雲を題材にしたもの、松尾芭蕉の句など色々あったが、水の都松江というような松江に関するものが多かったように思う。「お題はきっと自由なんだろうね~」なんて言いながら、それぞれの行灯の個性ある内容を見ながら歩いた。

 例えば、小学生の習字みたいに、“こめ”“うなぎ”“しじみ”なんて文字が、灯篭のそれぞれの面に書かれていたものがいくつもあったりするかと思うと、芭蕉の句を書いたものがあったりする。達筆な字で書いた俳句と美しい絵がそえられた行灯があるかと思えば、交通標語があったりする。

 その内容の自由な感じが面白く、突然出てくる予想外の言葉や子どもが作ったと思われるかわいい句に大笑いしながら夜の道を歩いた。

 そして私たち一行がベスト3に選んだのが次の句(?)である。

 “おじいちゃん 熱中症に気をつけて”

 “あー暑い そんな夏はかき氷”

 “宍道湖に 夕日がきれい あ、UFO”

 これらを書いたのは小学生だろうか。すごくわかりやすくて良い。行灯の手作り感とあいまって、すごくほのぼのと、そしてかわいらしく感じた。

 こうして行灯のお陰で、帰りの歩きは楽しく、そしてあっという間に駐車場へ戻ってきた。私は大笑いしたお陰で、風邪のだるさをすっかり忘れることができた。風邪をおしてまで行って本当に良かったと思う。

 こうして水燈路を楽しく終え、旅館に戻った。旅館に戻った頃には、息子は疲れて眠ってしまっていたので、息子を布団に寝かしつけ私だけ温泉に入り体を温めてから寝た。やはり旅館とおいしい食事と温泉の組み合わせは最高だ。海外旅行とは違った良さがあり、年とともにさらにこういうタイプの旅行も好きになってきた。

 海外旅行と国内旅行の内容というか楽しみ方はまったく違うものだが、どちらも非日常を味わうという意味では共通していると思う。海外へ行くと景色や町並み、文化がまったく違うという刺激的な非日常を味わえるが、国内旅行だと普段の生活ではやらなければならないこと(家事やこまごまとした雑事)をやらなくてもいいという、違った意味での贅沢な非日常を味わえる。どちらも今の私にとってはたまらない非日常なのである。

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