次の目的地は、出雲大社から車ですぐ近いところにある島根県立古代出雲歴史博物館だ。みんな疲れて喉も渇いていたので、歴史博物館の中にあるカフェで休憩することにした。
博物館は、車だと出雲大社からあっという間である。ここも出雲大社と同様、緑の美しい山を背に建っており、建物といい、周りの環境といいものすごくきれいなところだった。敷地も広く、とても贅沢なつくりだ。
博物館の中に入ってみると、まずスタッフが多いという印象を受けた。しかも若い女性が多いのが印象的だ。若い女性が多いだけで、とても華やかな雰囲気になる気がする。2階にカフェがあるというので、疲れていた私たちは展示物のあるほうにはまったく目もくれず、まずカフェに直行した。
カフェの名前は“阿礼(あれ)”。どこかで聞いたことのある名前だ。そう、古事記を編纂した人は、稗田阿礼(ひえだのあれ)という人だった。ものすごく懐かしい名前だ。たぶん高校生の時以来耳にしていなかっただろう名前だ。
古事記に関係の深い出雲という場所柄だけあり、きっと稗田阿礼から名前を取ったのだろうと思い、スタッフの方に聞いてみたら、案の定そうだということだ。いかにも古事記の世界を旅している気分にさせてくれるネーミングにちょっと嬉しくなる。
このカフェは、美術館とかにありがちな、吹き抜けでガラス張りの現代的で明るい雰囲気のお店だった。テーブルや椅子とかは普通だけど、カフェの雰囲気といい、窓から見える緑がきれいな中庭といい、ちょっと疲れた午後のひと時の休憩場所としては最高のものであった。ここから眺める近くの山の緑は、この辺の空気が澄んでいるせいかきらきら輝いて見える。出雲の神聖な空気が漂っているせいもあるのだろうか。
ここでお客さんは私たちだけ。静かな美術館のおしゃれなカフェで、優雅な時間を過ごすことができた。
といっても、こっちは小さな子どもが三人もいる家族旅行。わいわいがやがや、何をしでかすかわからない子どもたちに目を光らせていなければならなかったので、それほど優雅というわけにはいかなかったが。
ここではお茶をするつもりだったのだが、そういえばさっきみんなでお昼ご飯を食べたとき、うちの息子はぐっすり寝ていて何も食べていなかったこと思い出し、息子にはここでお昼を食べさせることにした。“古代米おにぎりセット”というのがあったので、それを頼んだ。古代米のおにぎりにサラダ、お味噌汁、ドリンクがセットになっているものだ。夫は古代米を使ったシフォンケーキとドリンクのセットを頼んだ。
ところで、ここのカフェはメニューの食材にとてもこだわりがあった。どれも島根のこだわりの食材を使っているみたいなのだ。
例えば息子に頼んだ“古代米おにぎりセット”は、地元で取れる古代米に、やはり出雲で取れる十六島(うっぷるい)海苔という岩海苔を使い、塩ももちろん地元産の塩、それにセットになっているお味噌汁や野菜サラダのドレッシングやお漬物まで、全て地元産にこだわったものなのだ。
古代米おにぎりセットだけでなく、夫が頼んだ古代米シフォンケーキの材料やアイスミルクの牛乳とかだって、島根県産のこだわりの食材を使っているみたいだ。嬉しいこだわりである。これなら息子にも安心して質の良いご飯を食べさせられると喜ぶ私であった。
ただ、子どもというのはだいたい、親が良かれと思ってやってあげたことは気に入らないもので、やはりここでも私が息子のためにとせっかく頼んであげた古代米のおにぎりには目もくれず、夫のシフォンケーキのほうにすっかり夢中になってしまった。
普段私たち家族の方針として、息子にはケーキなどの砂糖を大量に使ったお菓子類は一切与えないようにしている。砂糖は中毒性があるからという理由でだ。だから息子はケーキの味なんて知るはずもないのに、なぜだかおいしそうなものというのは本能でわかるらしい。最初から夫のケーキに目を輝かせていた。
旅行中だし、それにこのケーキは古代米を使っていてなんとなくヘルシーそうだし甘さも控えめだからまあいいか、ということで、生クリームのついていないスポンジのところをほんの少しだけ息子にあげることにした。
すると初めて食べたケーキが息子には衝撃的なおいしさだったらしく、その後も狂ったように「パーパ!!パーパ!!(もっとくれ!!と言っているつもり)」と必死になって夫に請求する息子。夫はケーキの大半を息子に食べられてしまったみたいだ。
結局息子は、ケーキに夢中になり、古代米のおにぎりはほんのちょっとしか食べてくれなかった。だから代わりに私が食べた(こうして母は太っていくのだろうか)。ケーキもおいしかったけど、このおにぎりは本当においしかった。ちょうどいい固さでにぎられた古代米に、抹茶のお塩がそえられている。そのお塩も上質な自然塩らしく、まろやかなしょっぱさですごくおいしい。
それにセットのサラダもすごくおいしかった。もちろんお味噌汁も。その他、ここは飲み物にしろデザートにしろ、食材が良いせいかどれもとてもおいしかった。他にもカレーなどの食事メニューがあったので、それらもきっとおいしいのだろう。地元とか近くであれば、また来たいと思うようなお店だった。
値段はおにぎりセット800円、シフォンケーキセット(ドリンクがついている)が850円、ドリンク類が500円~800円前後といったものだった。
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