たび猫の道後温泉旅行記
坊ちゃん・坂の上の雲を想う旅

旅行2日目

ミュージカル、アイ・ラブ・坊ちゃん

 実は私、『坊ちゃん』といえばもう一つ思い入れのあるものがあるのだ。それは、音楽座という劇団のミュージカルの『アイ・ラブ・坊ちゃん』という作品である。ご存知の方も多いのだろうか。私はこのミュージカルを、かれこれ13年くらい前に初めて見たのであった。

 この『アイ・ラブ・坊ちゃん』は題名から予想できる通り、『坊ちゃん』を題材にしたミュージカルなのである。夏目漱石が小説『坊ちゃん』を書き上げるまでを描いた作品なのだが、『坊ちゃん』のストーリーと、葛藤を抱えた夏目漱石の実生活が、不思議に絡み合っていき、最後には小説の登場人物などを通して漱石が色々気づかされるというもの。

 私はこのミュージカルのことをまったく知らなかったのだが、たまたま職場の先輩にチケットをいただき、鑑賞する機会に恵まれたのだ。そして観てみてびっくり!!体が震えるほどの感動のミュージカルであったのだ。

 そもそも私が夏目漱石が好きで、『坊ちゃん』が好きだったということも影響しているかもしれない。それと生のミュージカルというのを観たのも、このときが初めてだったことと、しかも席が前から3列目くらいというベストポジションだったこともあり、その迫力とストーリーに感動しっぱなしの私だったのだ。

 どのくらい感動したかというと、物語の最初のほうに、坊ちゃんが舞台に飛び出てくるシーンがあるのだが、その坊ちゃんの俳優さんの迫力と目の輝きとオーラの輝きに、本当に度肝を抜かれてしまい、その瞬間から私の目から涙がどばーっと流れ出て、最後まで涙で顔がびしょびしょだったのだ。自分ではまったく止められないほど、私は物語の最初から訳のわからない感動で、泣きっぱなしだったのだ。

 この時私は、輝いている人間というのをはじめて実際に目にした。比喩でもなんでもなく、音楽座の俳優さんたちは、顔が本当に明るく輝いていたのだ。一生懸命生きていたり、人に感動を与える仕事をしていると、人間本当に輝くことができるのだと知ったのもこのときであった。

 それとこのストーリーの感動的なことといったら・・・。このストーリーは、私たち現代人に、“人間ごちゃごちゃ難しいことを考えずに、もっと単純にまっすぐ生きろ。”ということを教えてくれているかのようだったのだ。世の中はどんどん複雑になり、生きにくくなっているように感じるが、私たちにもう一度人生について考えさせてくれる、そんな内容だったように私は感じた。

まだ若かった私は、「うんうん、そうだよね」などと涙を流しながら、いたく納得したのであった。

 そしてこのミュージカルの最後のほうで、夏目漱石が結核で若くして亡くなった友人の正岡子規と話をする場面がある。それは、小説『坊ちゃん』の中の重要な役割の登場人物・山嵐が実は正岡子規だったという設定で、山嵐を通じて死んだはずの子規が漱石に話しかけるのだ。

 色々なことに悩み、ぼろぼろになっている漱石が、子規の言葉によって何かに気づかされるこの場面、本当に泣けた。そして最後のほうに漱石が言う言葉、「人間、なぜ生きるのかではない。いかに生きるのか、だ」という言葉に、私はトドメを刺されたかのように感動し、さらに涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたのであった。

 このミュージカルを見て以来、山嵐のモデルは正岡子規だったのではないかと思い、この“坊ちゃんの間”にそのことがわかる資料でもあるのかと思い期待したのだが、残念ながらそれについては何もなかった。だからこの設定は、あくまでのこのミュージカルの中での設定なのかもしれない。

 とにかく、このミュージカルを見て以来、さらに山嵐の人物像が暖かく魅力的に思えたし、それに正岡子規自体にも興味を持つようになったのだった。

 余談だが、小説『坊っちゃん』の中で、私にとってはもう一人、重要な存在感を持つ登場人物がいる。他にも同じ気持ちの人がいると思うが、それは清である。

 清は、坊っちゃんの家で働いている下女なのだが、あまりにも暴れん坊で家族のみんなから愛想をつかされ、見放されていた坊っちゃんを、まるで息子か孫のようにかわいがってくれた人だ。この人のお陰で、坊っちゃんはまっすぐに育つことができたのではないかと思うほど、愛情をそそいでくれた人だ。 

 この清のお陰で、私は『坊っちゃん』を何度読んでも、涙がほろりと出そうになってしまう。それはこの清が、私自身の祖母と重なるからだろうか。小さい時から親に怒られたり、嫌なことがあって家族と話をしたくないときなどに、まるで避難場所のようになってくれたおばあちゃん。家に一緒に住んでいる頃は、そのありがたみに気づかなかったけど、離れて暮らすようになってから、どんなにそれがありがたかったものかわかったのだった。

 だから『坊っちゃん』の中で、坊っちゃんと清の絆を読むたびに、どうしても温かいような切ないような気持ちになるのである。清がいるからこそ、『坊っちゃん』はあれほど心に残る物語になったのだと私は思うのだ。

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